人の身体において「柔軟性」を高める事は、様々な動きを可能にしたり身体を痛めるリスクを減らしたりする上で役立ちます。身体の柔軟性を高めるための方法といえば「ストレッチ」が真っ先に思いつくでしょう。とはいえ、過度なストレッチをする事で望まぬ結果を生む事がしばしばあります。
人の身体には柔軟性と同様に大切な性質があります。それは「弾性」です。弾性とは「外力を加えられる事により形を変えた身体の一部が、その外力が取り除かれた際にどれだけ元の形に戻れるのか」という性質を表します。ちなみに、柔軟性とは「身体のある部位に外力が加えられた際、その部位がどれだけ位置や形を変えられるのか」という性質を表します。つまり、「柔軟性」という言葉は外力を加えられた際の身体の変化を、「弾性」という言葉は外力が取り除かれた際の身体の変化を表します。
実りの季節を迎えた稲穂を想像して下さい。稲穂には、風という外力によってその形を変える柔軟性があると同時に、風が治ったら元の形に戻れるという弾性があります。柔軟性と弾性が同時に備わった稲穂は「しなやか」と言えるでしょう。

過度なストレッチを行うと、身体の弾性限界を超えて組織が伸ばされます。この時、身体の柔軟性は向上したとしても、必要な弾性が失われます。この様な身体は、身体の外部から得られる運動エネルギーや位置エネルギーを身体の内部で弾性エネルギーにうまく変換する事が困難になります。つまり、身体のバネをうまく使う事が困難になります。それゆえ、エネルギー効率の良い動きをする事が困難になったり、身体を痛めるリスクが高くなったりします。
では、身体の必要な弾性を失う事なく、身体の柔軟性を高めるためには何が必要なのでしょうか?それは、身体の内部に潜む動きの制限を取り除くという事です。例えば、骨盤内の仙骨に動きの制限があり、それが大腿部の後面にあるハムストリングスの筋緊張を高め、股関節の柔軟性が低下している人がいるとします。この場合、この例で紹介した人はハムストリングスのストレッチを過度に行うべきではありません。骨盤内の仙骨にある動きの制限を取り除く事が必要です。他の例では、胸椎の一部に動きの制限があり、それが骨盤内における仙骨の動きを妨げ、それにより大腿部の後面にあるハムストリングスの筋緊張を高め、股関節の柔軟性が低下している人がいるとします。この場合、この例で紹介した人は胸椎の一部にある動きの制限を取り除く事が必要です。
身体の柔軟性を高めるためには、身体の中に潜む動きの制限を取り除く事が重要です。動きの制限を取り除く事ができれば、身体の柔軟性は自ずと向上します。さらには、身体の弾性も自ずと向上するでしょう。
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