良い動きとは何か?-11-【ヒストリー03】

前回からの続きです。力とエネルギーの観点で動きをみるという考えに至った私ですが、そこにどうやって「良い」という価値観をつけるのかが残された問題でした。

そもそも「良い」とか「美しい」という感覚は人の主観です。これらを数値化するのは困難です。では、身体の動きに対して「良い」や「悪い」を決められるのは、本来誰であるべきでしょうか?それはその動きをしている人自身である、と私は思います。つまり、リハビリテーション領域の場合、セラピストではなく患者さんです。

私にできる事は、患者さんが自身の動きに対して肯定的な言葉を言った際に、どの様な変化が身体の中で起こっているのかを客観的に感じる事です。具体的には、「楽です」・「軽いです」・「痛くないです」、この様な言葉が出た際の身体の変化です。その過程の中で私は、力の観点でみると滑らかさが、エネルギーの観点でみるとエネルギー効率が変化していると認識しました。これが、滑らかさとエネルギー効率という観点で動きをみるようになったきっかけです。

「動きの滑らかさとエネルギー効率」、これは物理の原則に基づく観点です。そしてこれは、患者さんの言葉に基づく観点です。2019年の夏、私はこの観点に至りました。

この観点に至った私は、それが人に伝える価値があるものか検証を繰り返しました。姿勢や動作に痛みがある人や安定性が必要な人、スポーツ領域において素早い動作や力強い動作が求められている人、これらの人に役立つか臨床の中で確認を繰り返しました。

検証の末、少なくとも私の専門領域である運動器理学療法の分野ではこの観点は役に立つと思うに至り、私はそれを人に伝える事を始めました。母校のオンラインセミナーがその始まりです。2021年7月の事でした。

観点という言葉は、英語で表すと”viewpoint”です。「観察する位置」という意味があります。観察する位置が異なると、景色の見え方は異なります。例えば富士山の見え方は、静岡県と山梨県では異なります。動きもそれと同じです。複数の観点からみることで、動きをより深く理解する事が可能になります。私の動きのみかたが誰かの役に立てば嬉しく思います。

今後のブログでは、動きの評価方法や動きを良くするための具体的な方法をお伝えする予定です。しかしその前に、そもそも「動き」とは何なのか?これを次回のブログで書く予定です。それを明確にしなければ、その先の話が書きにくいからです。それでは、また次回。

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